2013年3月29日金曜日

自己充足的な若者はこれからどう生きればよいのか?

この頃暇なせいか,自分の人生について考えることがあり,上野千鶴子・古市憲寿著『上野先生,勝手に死なれちゃ困ります』を購入。本書は古市さん(若者代表?)の悩みに上野さん(フェミニスト)が答えるという対談本。古市さんは,僕よりもたった4つ上だけれども,僕よりもよっぽど多くのことを考えているのだなあと尊敬する。

■親子の庇護関係の逆転に対する不安

古市さんの悩みは,結局彼の自己中心性に起因するのだけれど,実は今の若者の大半が抱える共通の悩みであって,だから僕には共感できた。たぶん声には出さずともみんなが同じ悩みを抱えていて,誰かに答えてほしかったに違いない。そういう意味で,この問題をあからさまに文章化した古市さんに,敬意を表したい。
『僕はいったい何が不安なのか,教えていただけますか』(p. 24)
『ああ,(注:親が生きてるあいだに自分が死ぬほうが)ラクですね。親が悲しむのはわかるんですけど』(p. 38)
上野さんは,古市さん(むしろ今の若者)の根源的な不安というのが,親子の庇護関係の逆転に対する不安(一生子供のままで生きていきたい人間が,子供でいられなくなった時の不安)であると分析する。実はその不安は親も持っている。(この共通の悩みの原因は,成り上がりの団塊世代が,子供を教育するという意識をもたず,自分がしてもらえなかったことを子供にはしてあげたいというルサンチマンだけが残った結果,「魚の釣り方を教える」ことがない子育てを犯したからだとして,この問題を理解する。)

2013年3月26日火曜日

意志力を科学する

この本,書店で山積みになっているのだ。ケリー・マクゴニガル著『スタンフォードの自分を変える教室』。ただの自己啓発本と思って手にとってみると,「科学者になりなさい」と書いてある。いったいどういうことか。

著者は,意志力を「やる力」,「やらない力」,「望む力」に分類し,それらが前頭前皮質の働きによることを説明する(それぞれが前頭前皮質の上部左側,上部右側,中央の少し下に対応するんだとか,部位までわかってるのはほんとなの?)。だから,科学的な方法で脳の状態を変化させれば,前頭前皮質の働きを高めて自己コントロールを強化できるという著者の主張は,そこそこ納得できる。

2013年3月20日水曜日

生物学者モノーの思想

モノーって科学者である立場を超えてなんかよくわかんないこと言ってるぞ,という感じで,僕は『偶然と必然』の理解をあきらめていた。そんなときに出たのが,佐藤直樹著『40年後の『偶然と必然』』という本で,少し前にこれを読んだので,考えたこととを記しておく。僕は,フランス語が全くわからないので,この本の丁寧な考察を伝えることができないけれども,自分なりに『偶然と必然』の理解は深まった気がする。

モノーは,オペロン説とアロステリック制御を提唱した生物学者(オペロン説でノーベル賞受賞)である。オペロン説とは,生理的適応(合目的性)をDNA結合タンパクの遺伝子制御(転写のオン・オフの切り替え)によって説明するモデルであった。一方アロステリック制御の概念によれば,シグナル因子は,アロステリック制御を通じて酵素(1つのタンパク)の構造を変えることによって,酵素活性のオン・オフの切り替えを行う(1)。この2つの概念を合わせれば,環境依存的なスイッチを意味する生理的適応を,理論的には,シグナル因子によるDNA結合タンパクのアロステリック制御という要因で説明できたのだ。

2013年3月7日木曜日

ギブソンと認識論

生命の特徴として,環境である外部を生体の内部に「埋め込む」点が挙げられるだろう。それは脳の認知のレベルでなくても,単に細胞の内部状態が細胞外の環境に適応的な状態へと変化するレベルでもよい。
今回はアフォーダンスについて考えてみたい。佐々木正人『アフォーダンス―新しい認知の理論』は,認知理論の転回を,ギブソンの歩みとともに紹介した,極めて明快で平易な入門書である.本論は心理学的実験によって正当性が与えられているが,純粋に論理的帰結として与えられる,「埋め込み」において普遍的な理論かもしれない。