2013年4月7日日曜日

アガサの洗練されたセンスに脱帽

アガサ・クリスティの著作で最も人気が高いとも言われる,トミーとタペンスシリーズ『秘密機関』を読んだ。アガサが多くの短編・中長編を残したポワロシリーズは最も有名であるが,実はアガサは最初の数作で彼にあきあきし,出版社にむりやり書かされる形でシリーズを続けていたそうだ。一方このトミーとタペンスはというと,アガサ自身も,この2人が大好きだったに違いないという気がしてくる,幸せ感たっぷりのシリーズである。

この本,最後の最後にどんでん返しがあるが,読者にはおおよその事実が予想できてしまう。そのせいか,犯人の独白はほとんど描かれず,ずいぶんとあっさりしている(ミステリーの内容に関しては,全体的にテンポが速い)。代わりに独白の直後,トミーたちが勢いよく飛び出してきて犯人を逮捕するシーンに重点がおかれ,主人公のコミカルな活躍が前面に出されている。そのような細かな配慮が本書を読み易くしており,人気の高さもうなづける。

本書を通じたテーマの一つは「運命」である。実に出来過ぎた形で真相が明らかになっていくし,勘違いにもかかわらずなぜか計画通りに物事が進んでしまうあたりは,不合理ではある。でも,登場人物が「運命」を自ら肯定することで,整合性がとれてしまっている。こうして登場人物の運命がアガサの手中に握られていると思うと,彼女のいたずら心が実に可愛らしく感じられる。最初にタペンスが金持ちと結婚したいと言って,タペンスとジュリアスの関係が見えてくるかと思えば,最後の最後ではうまく修正されて,2組の主人公が正しい組合せで結婚することになる。ピッタリな終わり方で,実に爽快である。このセンスのよさにはまさに脱帽!

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